橋本聡「gift」
■橋本聡のパフォーマンスを含んだ多くの作品には、負荷が発生する。近作『One dozen』では、展示空間に色とりどりの4m程の長い棒を肩に担いだ本人が、ビデオカメラを持って立っている。会場内には、壁側にいくつかの小さなモニターが点在しているので、来場者は彼を避け、そのモニタの映像を見ようと動く。すると彼は、棒がぶつかるかどうかのギリギリの距離まで背後から近づき、その様子を撮影しはじめる。はじめはそのことに気が付かない来場者も、ビデオカメラの映像が、会場の一角にプロジェクションされていることを知り、監視されているかのようなその状況に戸惑いを禁じ得ない。橋本はさらに執拗に追い続け、時間が経ったところで棒で肩を叩き、振り向く来場者に展示の感想を求める。会話の内容は日常的なものにもかかわらず、その奇妙な状況と会話のギャップに、来場者はますます居心地の悪さを感じることになる。
■ここで作家自身が自らに課せた、会期中会場に居続けること、棒を担ぐこと、感想を求めること等々は、一つ一つは特に現実離れしたものではないのだが、それが同時に起こることで、当たり前のことが異様な現実となって立ち現れる。そして、そのルールのようなものは厳密で執拗であるが故に、場に独自の重力を生み出し、見る側にも負荷が突きつけられる。負荷やリスクを背負わなければ、何も見る(得る)ことができないのだ。鑑賞体験としては、いささかハードルが高いかも知れないが、そうして得られる身体感覚や倫理観をゆさぶる体験の中にこそ、私たちの日常からこぼれ落ちてしまった、生々しい生や物との出会いがあるのではないだろうか。それは、いまここに立つ『私』という存在が問われる瞬間なのかもしれない。(長内綾子/コーディネーター)
会期:2009年5月9日(土)〜6月7日(日)
時間:12:00〜19:00(土日祝は18:00まで)
会場:Otto Mainzheim Gallery(アクセス)
入場料:無料(予約不要)
オープニング・レセプション:5月9日(土)18:00〜22:00
※当日19:00より橋本聡がパフォーマンスを行います。
【 プロフィール 】
橋本聡|Satoshi HASHIMOTO
1977年東京生まれ。
<昨年の発表>
「frame」38th & 39th streets, 8th & 9th Avenues (ニューヨーク)
「FULCRUM」sh site (ニューヨーク)
「FLOWER」ISCP (ニューヨーク)
「fruit」タイムズスクエア (Between 44th & 45th streets) (ニューヨーク)
「Focus」[グループ展「point」]Alternative Space Loop (ソウル)
「foot」スクラッチタイル (横浜)
「One dozen」[αMプロジェクト現われの空間]art space kimura ASK?(東京)
<今後の予定>
今春ミラノでのグループ展「EMPORIUM」、6-7月にBAL主催「Whenever Wherever Festival」(東京)、2010年1月に日韓グループ展「POINT」(京都)への参加が予定されている。