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TALK: 1006

現代刑罰国家の生成とその〈外部〉
―米国不法移民の日雇い労働=生活世界―


<ゲスト>
田中研之輔(法政大学キャリアデザイン学部専任講師)
<モデレーター>
南後由和(東京大学大学院情報学環助教)

■1970年代中期以降に米国では、収監人口の激増、司法犯罪制度の再設計、刑罰産業の拡大に象徴的にみられる刑罰化政策が急速に推し進められてきた。これらの動向は、「単に経済的貧窮層の社会的排除ではなく、社会権利的・社会存在的に深刻な状況におかれている〈脆弱な貧者〉を処罰していく〈監視社会から監獄化社会〉への社会的変化を先導する国家の刑罰志向への転回をさし、強力な実践的効力を持つ」[拙稿2008「新自由主義と社会的排除―ロイック・ヴァカンの刑罰国家論」『論座』(朝日新聞社)、p.134]、いわば、〈新自由主義国家の刑罰論的転回〉としてまとめる事ができる社会動態変化であるといえる。
■ここ数年、議論される機会の多かったゼロトレランス政策、監視社会論、排除型社会論などは、この新自由主義国家の刑罰論的転回の段階的展開を経験的に(かつそうであるがゆえに、断片的に)捉えてきた問題構成であった。ポイントは、ここにみる現代国家の刑罰化が、たんに「上」から推し進められてきた強硬政策だっただけでなく、市民の日常生活空間での不安への過剰な反応や、セキュリティ・ボランタリズムにも共鳴することで「下」からも受容されてきたグラスルーツな活動への迅速な国家的対応として正統化されてきたことである。
■今回の報告では、前半に、「現代刑罰国家の生成」の構造的・社会的背景を明らかにしていく。後半では、現代刑罰国家の〈外部〉に存立する米国不法移民の日雇い労働の生活世界を取り上げる。時間の許す限り、米国の現代社会階級・階層構造と、民族-人種支配、社会的排除、領域的スティグマ化(ロイック・ヴァカン、2007)の分析視座を導入しながら、本事例を分析していく。これらの話題提供をもとにフロアの皆さんと、ハイパー・グローバリゼーション下の現代刑罰国家の暴走ぶりとその矛盾点、さらには、都市周縁層の〈生存権〉について議論を深めていきたい。

*上記内容の詳細については、拙稿訳ロイック・ヴァカン著『貧者を罰すること―社会的分極化と刑罰の激増』(論座、朝日新聞社、2008年9月号、p.122-132.)を参照して下さい。
*なお、ロイック・ヴァカン氏は、2008年12月17日から20日に国際文化会館で開催される世界社会学会都市・地域部会、東京国際会議に出席するために初来日します。詳細は、http://www4.ocn.ne.jp/~mmaru/index_j.htm 。また、この初来日にあたり、東京・北海道・名古屋等でヴァカン氏の特別講演会・研究会等を開催いたします。ご興味のある方は、当日、報告者までお尋ねください。

日時:2008年10月6日(月)20:00〜22:00
会場:Otto Mainzheim Gallery(アクセス
定員:30人(予約制) 参加費:1,000円(1ドリンク付)

【 プロフィール 】
田中研之輔|Kennosuke Tanaka
1976年生まれ。法政大学キャリアデザイン学部専任講師。一橋大学大学院社会学研究科後期博士課程を単位取得退学後、メルボルン大学政治学部社会学プログラムで2年間、その後、カリフォルニア大学バークレー校社会学部で2年間、研究に従事する。専門は、社会学。近年の主な関心は、都市周縁層論、刑罰社会論、リフレクシブ・フィールドワーク論など。2008年4月より現職。
南後由和|Yoshikazu Nango
1979年大阪府生まれ。東京大学大学院情報学環助教。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専攻は社会学、都市・建築論。アンリ・ルフェーヴルやシチュアシオニストの都市論を学びつつ、建築家の有名性やグラフィティ文化など、都市・建築をめぐる有名性/匿名性の位相の研究に従事。